土用、雨
雨が降ってきた。 いい音がするなと思い、縁側に向かって座り、耳をそばだてていると、我が家の小さな庭を雨から逃げるように猫が 通りすぎた。ぼんやり眺めていると猫は縁の下でもってふんわりと横になっている。ああ、なるほど猫も雨音を聞く のだな、などと感慨にふける。 雨の音というのは、なんと心地いいのだろう。それだけで気分が晴れていく。雨は…、そうか、雨はやはり洗い流し ていくのだな…雨が。 ふと雨脚が強まる。ばらばらばらと、これもまた小気味いいリズムだ。ばらばらばら。ばらばらばら。ナアオ、と縁 の下から猫が鳴く。ほう、お前にも分かるかい、そうかそちらの方が良く聞こえるのかい、雨の音。私もそちらへ行 こうか。 縁側へ足をぶらりとやって、置きざらしにしてある突っかけサンダルを履くと、縁の下へ潜り込んだ。縁の下に来る と、ここは思ったよりも広くて、そして暗い。奥の方がどうなっているのか、全く見えない。雨音はしだいに大きく、 意識は暗闇の方へ集中していく。 しばらく暗闇の時間を過ごすと、突然呼びかけるものがいた。 「いかがでした。」 猫だ。ふわりと丸くなっていた、あの猫。二本足で立ち、縦長に細まった光る目でこちらを見つめている。前足では 器用に籠を揺すっている。小豆が入っている。 「雨音、お代はあちらで。」 縁の下の切れ目に空き缶。「カンパ箱」と大きく。 庭へ出てみると、なんとも広々とした青空。